01
side 千尋
「んぅ…」
温かい。ぎゅぅ、と抱きつけば優しく抱き締め返される。
それが心地好くて、ふにゃりと口元が緩む。
「…ひろ、…ちひろ」
「ぅ、むぅ…」
嫌だ。起こさないで。まだこのままがいい。
「ったく、しょうがねぇな」
耳元で優しい声がして、背中をポンポンと叩かれる。
「起きないと置いてっちまうぞ」
「や…」
大好きな人の声が意地悪な事を言う。
まだこの温もりに包まれていたかったけど、オレはゆっくりと重い瞼を開けた。
「よし、起きたな。おはよう千尋」
そこには、大好きな人の格好良い笑顔があった。
「ぉはよ///」
そうだった。昨日引っ越したんだった。
それで一緒に寝たんだ///
「照れてる千尋も可愛いけど、そろそろ放してくれないと朝御飯なしだぞ」
「え!?」
ハッ、と自分の体勢を確認すればオレの腕は夏野の体にしっかり回され、抱きついていた。
うわぁ〜、オレってば何してんのっ///
慌てて手を放して、起きる。
「ごめっ///」
「別に謝んなくてもいいぜ」
クスリ、と笑った夏野はオレの額にキスを落とし、朝食は俺が作るから着替えて後から来い。と、頭を撫でて部屋を出ていった。
「うわぁ///夏野、格好良すぎだって///」
その後、昨日に引き続き夏野の手料理を終始笑顔で食べたオレははた、と危機感を感じた。
何やってんだオレ。このままじゃダメだ。
「夏野、今日の夕飯はオレが作るからね!」
オレの手料理を夏野に食べてもらわなくちゃ。んで、美味しいって言わせるんだ!
意気込むオレに夏野は楽しみにしてる、と笑った。
「うんv」
夏野のために頑張るぞ。
と、夕飯の事はひとまず置いといてこれから夏野とデートだv
◇◆◇
一番最初にホームセンターへ向かい、合鍵の作成を頼んだ。
そして、今は…
「ねぇ、夏野コレとコレどっちが良いと思う?」
俺の手には二種類の目覚まし時計。
「そうだな…、コッチの方が良いんじゃないか」
「じゃ、コレにしよっv」
夏野に選んでもらった時計を買い物カゴに入れる。
「いいのかそんな決め方で。ちゃんと自分でも選んで決めろよ」
そんな事を店に入ってから何度か繰り返していれば夏野に頭を撫でられ、そう言われた。
オレはそれに大丈夫、とにこっと笑い返してレジへ向かった。
「ちょっと待て、千尋」
「ん?」
レジにカゴを置いてオレは夏野を振り返る。
「それは俺が払うから千尋は向こうで待ってな」
返事を返す前に夏野は財布を取り出して、オレの背を押した。
何かオレ、彼女扱いされてるっ!?///
カァッと顔を赤く染めてオレは夏野が支払いを済ませるのを待った。
「ほら千尋、次行くぞ」
そして、荷物は彼氏よろしく夏野が持ってくれた。
お昼はお洒落なイタリアンレストランでとり、オレは大満足だった。
「美味しかったか?」
「うんvでも、夏野よく知ってたね。あのお店」
少し入り組んだ道にあった、隠れ家的なレストラン。
オレは首を傾げて隣を歩く夏野を見上げた。
「こうなるだろうと思って、千尋が好きそうな店にあたりを付けておいたんだよ」
ふと柔らかい笑みを浮かべた夏野はその顔でオレを見つめた。
オレの、為?
オレの…
うっわ〜///
嬉しすぎて心臓がきゅぅってなり、一気にオレの顔は赤く染まった。
「〜っ///夏野、大好きvV」
感情が溢れ出るままにオレは夏野に抱きついた。
そして、抱きついてからあっ!と気付いた。
路地とはいえ、外で夏野に抱きついちゃった。
「千尋」
でも、そんな事は杞憂に終わった。
夏野の腕がオレの身体に回されてぎゅっ、としっかり抱き締め返された。
嬉しいけどいいのかな?
「続きは家でな」
「えっ!?///」
っ、続きってなに〜!?///
耳元でコソッとそう囁かれ、身体を離された。
「さ、次行くぞ」
「…ぅ、はい///」
何事もなかったかのように先を促す夏野にオレはちょっとだけぎこちなく頷いた。
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